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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)122号 判決

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがなく、また、(イ)電磁流量計が、<1>絶縁材料により内側をライニングしたパイプ、<2>パイプ内に一定の磁束を印加するための磁束発生部、<3>パイプ内の流体に発生した起電力を外部に取り出すための一対の測定電極を必須の構成要素とする導電性の流体の流速や流量を測定するための装置であること、及び(ロ)電磁流量計に関し、<1>電磁流量計にライニングを施されたパイプが用いられること、<2>パイプのライニングが剥離するとパイプ断面積が変わり、測定誤差が生じたり、測定不能になること、<3>ライニングがパイプ壁から剥離するのを防止するための対策が数多く提案されていたこと、<4>したがつて、ライニングの剥離防止効果が優れたライニング付きパイプの出現が望まれていたこと、<5>電磁流量計は、耐熱性、耐薬品性が要求される化学プラントにも多用されていることが、いずれも周知の技術もしくは周知の事項であることも当事者間に争いがないところである。

二 取消事由に対する判断

1 取消事由(一)について

(一) 成立に争いのない甲第二号証(本件考案の実用新案公報)によると、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の欄には、前示本件考案の要旨のとおりの記載が存することが、また、考案の詳細な説明の欄には、本件考案について、「本件考案は、電磁流量計に関し、特にライニングを補強した電磁流量計に関する。」(同号証第一頁左欄考案の詳細な説明の欄第一行ないし第二行参照)との記載が、電磁流量計に用いられている従来のパイプ(測定管)及びその有する欠点並びにその欠点が電磁流量計に与える影響(解決課題)について、「電磁流量計は第1図に示すような構造の測定管を有している。すなわち、同図のように両端がフランジに形成されているパイプ1と、このパイプ1の内部に内張りされかつパイプ1のフランジまで覆うように形成されたライニング2とが接着されている。このような測定管を実際に使用する場合……測定管内が低圧、特に大気圧以下さらには真空になる場合がある。この状態が生じたとき、パイプ1には外圧が加わり、このためパイプ1とライニング2との接着部分がはがれる原因となる。このはがれが生じると、流量測定における測定誤差が発生し、極端な場合には測定不能になつて電磁流量計の寿命が短くなる。」(同頁同欄第六行ないし同頁右欄第六行参照)との記載が、また、本件考案の目的及び作用効果について、「本考案の主目的は堅牢な測定管を設けた電磁流量計を提供するものである。」(同頁同欄第七行ないし第八行参照)との記載が、更には、本件考案の奏する作用効果について、「測定管内が低圧あるいは真空になり、測定管に外圧が加わつてもライニングとパイプとが密着を維持するために、流量測定における測定誤差が発生することなくしかも、測定不能になることなど全くなく、堅牢で長寿命な電磁流量計を得ることができる。」(同頁同欄第三三行ないし第二頁左欄第一行参照)との記載があることが認められ、こうした記載に、前記一(イ)の本件考案の実用新案登録出願前における電磁流量計の必須の構成要素に関する周知事項を総合勘案すれば、本件考案は、電磁流量計を対象とした考案、具体的には、電磁流量計のパイプのライニング部分を改良した点に特徴を有する電磁流量計の構造に関する考案であつて、前示本件考案の要旨のとおりの構成を採用することにより、前記のとおり測定誤差発生の防止、測定不能の回避という作用効果を奏し得たものと認められる。確かに、原告主張のとおり、本件明細書にはパイプ(測定管)以外の電磁流量計の構成について何ら記載されていないが、前示の周知事項及び前認定の本件明細書の記載事項に徴すれば、本件考案の特徴はパイプ(測定管)のライニング部分の構成にあり、本件明細書において、パイプ(測定管)以外の、例えば、磁束発生部や測定電極の構成並びにそれらの結合の仕方についての記載が存しないのは、それらの点に本件考案の特徴はなく、それらの構成は従来周知の電磁流量計におけるそれと変わるものではないことから自明なこととして、すなわち、考案の対象物を「電磁流量計」と表現するだけでそれらの構成を特定できるものとして周知事項に関する記載を省略したからであると解されるのであつて、この点に関し本件考案が用途を電磁流量計に限定したパイプの構成にあるとする原告の主張は、本件明細書の前記記載や本件明細書において電磁流量計のパイプ以外の構成についての説明を省略したことの意味を無視し、本件考案における電磁流量計の改良点のみを、電磁流量計との結びつきを捨象して抽出し、そこから本件考案の解決課題ないし目的及び構成を独自に構成してなす主張であつて、その前提において誤つており、採用することはできない。また、本件明細書に記載された「流量測定における測定誤差が発生することなく、しかも測定不能になることなど全くない」という効果は、ライニングの剥離防止という技術手段を電磁流量計に適用して始めて奏せられるのであり、測定誤差の発生、測定不能による寿命の短縮という従来の電磁流量計におまる欠点の改良を意図し、この両者を結び付けた点に本件考案の特徴があるというべきである。したがつて、原告が主張するように、右効果をライニング剥離防止により期待される単なる予想効果ということはできない。原告は、右の作用効果は剥離防止可能なライニング付パイプを電磁流量計に用いた場合に必然的にもたらされる効果であるとも主張するが、右主張は、第一引用例に剥離防止可能なライニング付パイプを電磁流量計に用いるとの技術的事項が開示されていることが認められて始めて本件考案の新規性を否定するものとして意義あるものというべきところ、後記(三)に説示するように第一引用例にそうした技術的事項が開示されていると認めることはできないから、原告の右主張は、その前提を欠き、失当といわざるを得ない。

(二) 他方、第一引用例に「鋼管の内壁に内張りした四弗化エチレン樹脂が挫屈破壊するのを防止するために、この樹脂に鋼線網を埋設したもの」が記載されていることは当事者間に争いのないところであり、成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)によれば、第一引用例には、右事項のほか、右鋼管は、化学プラント等において用いられる四弗化エチレン樹脂パイプが高温高真空において挫屈破壊するのを防止することを目的としたものであること、右パイプにおいては、鋼線網の両端部を鋼管フランジに溶接し、強固に鋼管内に嵌装されていることから、高温高真空の使用に対しても内側に引き込まれて挫屈破壊することがなく、また、接着剤で心配される熱による老化もないから、長期の使用にも十分耐えるという作用効果を奏する旨記載されていることが認められ、右事実を総合すれば、第一引用例には、結局、「四弗化エチレン樹脂(TFE)で内張りしたパイプの高温高真空における挫屈破壊(パイプとライニングの剥がれ)を防止すること」を目的とし、「高温高真空の使用に対し、内張りされたライニングとパイプとの密着性が維持され、挫屈破壊することがない」という作用効果を奏するところの、「パイプに内張りされたライニング内に円筒形の鋼線網の補強材を埋設した鋼管」が記載されているものと認められる。

(三) そこで、本件考案と第一引用例記載の考案とを比較すると、前者のパイプ、補強材が後者の鋼管、鋼線網と対比されるところ、両者は、いずれも、外側に配設されるパイプ(鋼管)と、その内側に設けられ、補強材(鋼線網)を埋設したライニングとからなる構成を有し、しかも、ライニング内に補強材(鋼線網)を埋設した技術的意義が、いずれもパイプ(鋼管)内の圧力の大幅な低下によるライニングのパイプ(鋼管)からの剥離の防止及び右剥離に伴うライニングの破壊の防止にある点において、その目的及び構成の一部に共通点が存するものと認められるが、前認定説示のとおり、本件考案の対象が電磁流量計であるのに対し、第一引用例記載の考案の対象は四弗化エチレン樹脂パイプ内張り鋼管であつて、両者は、その考案の対象物を異にすることは明らかであり、したがつて、当然のことながら、本件考案においては、ライニングの剥離防止可能な右パイプを用いることにより、流量測定において測定誤差を防止でき、しかも、測定不能となることが全くないという、電磁流量計に特有の効果を奏するものであるのに対し、第一引用例を精査するも、同引用例にはその考案の対象物である四弗化エチレン樹脂パイプ内張り鋼管に関連する技術的事項の記載があるだけで、同引用例にはライニングの剥離防止可能なパイプを電磁流量計に適用することによりそのような効果を得ることができることに関する記載はなく、しかも、そのような事項が第一引用例記載の考案から自明のものとして予測し得るものでもない。

原告はこの点に関連して、第一引用例は同記載の考案の鋼管を電磁流量計に使用できることを示唆している旨主張する。仮に、右のような記載があるとしても、直ちに同引用例に本件考案に係る電磁流量計の記載があるものといい得るか否かは問題であるが、その点はさて措き、確かに、前掲甲第三号証によれば、同引用例には、同記載の考案においてライニング付鋼管が用いられ、そのライニング剥離防止効果が優れていること、このライニング付鋼管が腐蝕性の強い液体を扱う化学プラントに使用されるものであることが記載されている。しかし、前記認定のように、第一引用例記載の考案の対象物が四弗化エチレン樹脂で内張りされた鋼管であり、同引用例記載の技術内容も右鋼管に関する事項に限られていると認められる以上、電磁流量計が化学プラントに使用されている事実があるとしても、また、これらの記載に当事者間に争いのない前記一(ロ)の電磁流量計に関する周知事項もしくは周知技術を参酌しても、同引用例に原告主張のような示唆があるものと認めることはできない。また、原告は、両考案が同一である根拠として本件考案における電磁流量計が単なる用途限定又は自明事項にすぎない旨主張しているが、右主張が理由がないことは既に説示したとおりである。

(四) 以上のように、本件考案と第一引用例記載の考案とは、その対象物を含んだ構成と右構成に伴う効果を異にするものであるから、これを同一考案と認めることはできない。(なお、本件審決は第一引用例記載の鋼管が非磁性体である旨認定するところ、右認定が誤りであることは当事者間に争いがないが、以上に認定したところによれば右の誤りは本件考案と第一引用例記載の考案の同一性を否定した本件審決の結論に影響を及ぼすものではない。)

2 取消事由(二)について

(一)(1) 第二引用例に本件審決認定のとおりの事項が記載されていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四号証(第二引用例)によれば、第二引用例には、右事項のほか、第二引用例記載の発明は、真空時の汚染性あるいは腐蝕性流体に適したフツ素樹脂で内張りされ、強化された内張り真空ベローズ(ひだ付き継手)に関する発明であつて、拡張管継手内のライナーを単にフツ素樹脂に置換えただけでは、管内圧力が真空になる場合に右ライナーが継手から引剥がされ、破損し、継手部を破壊することがあつたことから、広い範囲において完全真空に耐えることができる真空ベローズ(ひだ付き継手)を実現すること等を目的とし、本件審決認定のとおりの事項(構成)を採用したこと、及び右構成を採用することにより所期の効果を奏し得たものであることが記載されていることが認められる。

(2) また、第三引用例に本件審決認定のとおりの事項が記載されていること(「ライニング材が軸方向に移動するのを防止するために」との事項が記載されているとの認定は除く。)は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第五号証(第三引用例)によれば、第三引用例には、右事項を含め、第三引用例記載の発明は、フランジ継手部を有するライニング付導管に関する発明であつて、従来、ライニング付導管は、その使用時にライニングの軟化温度に近い温度を含むサイクル的温度変化を受けることにより、フランジ部においてライニング材料が徐々に変形し、最初漏れのない継手部を形成していた継手から漏れが生じるようになることがあつたことから、フランジ立上がり部のプラスチツクライニング材中に、多数の凹所を有する剛性支持部材を埋設することによつて改良された管継手を得ることを目的とし、フランジ付き導管の内部に、同じくフランジ付きの合成樹脂のライニングを設け、ライニングのフランジには、多数の孔と中央開口とを有する円錐台形型の支持体を埋設させ、右多数の孔にライニング材が入り込むことによつてライニングを導管に密着させてなる導管、という構成を採用したこと、及び右構成を採用することにより、支持体は円錐ばね座金としての効果を奏し、継手部を取付けて締付けるとともに、ライニングを長期間圧縮荷重状態に維持することができるという作用効果を奏するものであることが記載されていることが認められる(したがつて、本件審決認定のとおり、第三引用例には、「ライニング材が軸方向に移動するのを防止するために」との点も実質的に記載されているものと解せられ、右の点が第三引用例には開示されていないとする原告の主張は理由がない。)。

(3) 更に、第四引用例に本件審決認定のとおりの事項が記載されていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第六号証(第四引用例)によれば、第四引用例には、右事項のほか、第四引用例記載の発明は、ゴム材で作られたパイプラインに用いる拡張管継手に関する発明であつて、従来の右継手は、パイプライン内部の高圧に耐えられず、ゴム材が外部に押し出されるという欠点があつたことから、内部の高圧によつて破壊されず、温度変化に耐え得る新規な改良されたゴム製拡張管継手を提供することを目的とし、本件審決認定のとおりの事項(構成)を採用したこと、及び右構成を採用することにより所期の効果を奏し得たものであることが記載されていることが認められる。

(二) そこで、本件考案と第二引用例ないし第四引用例記載のものとを対比するに、前認定の事実によれば、原告主張のとおり、第二引用例には、パイプに内張りされたライニングがパイプ内の負圧のために剥離して破壊されるのを防止するという解決課題が開示されていること、第二引用例及び第四引用例には、右課題解決のための管状の補強材をパイプの内壁に埋設する技術が開示されていること、及び第三引用例、特にその第3図には、フランジ部においてライニング材料が徐々に変形するのを防止することを目的として、パイプに内張りされたライニング(ライナー32)内に補強材34をフランジ部にモールドした構成が示されていることは認められるが、第二引用例ないし第四引用例記載の発明は、いずれもパイプの継手に関する技術手段に関する発明であつて、そこには、パイプそのものの構造に関する技術手段は開示されておらず、しかも、第二引用例及び第四引用例記載のものはライニング内ではなく、継手の管自体の中に補強材を埋込んだものであり、第三引用例記載のものも、ライニングのフランジ部だけに補強材を埋込んだものであるから、補強材を埋込んだ構造それ自体において本件考案に係るパイプとは相違しており、更に、前掲甲第四号証ないし第六号証を精査するも、第二引用例ないし第四引用例のいずれにも、本件考案に係る電磁流量計のパイプの構成を示唆する記載や右各管を電磁流量計の測定管として用いることを示唆する記載が存するものとは認められない。

(三) 原告は、電磁流量計のパイプにおいて、負圧に対してパイプのライニングが剥離しないようにするという解決課題及び右解決課題を解決するためのパイプに内張りされたライニングに補強材を埋め込むようにする技術は、いずれも本件考案の実用新案登録出願前より周知であることを理由に本件考案の進歩性を否定するが、原告の右主張に係る事実が周知の事実であるとしても、前認定説示のとおり、第二引用例ないし第四引用例記載の管継手の構造は本件考案に係るパイプの構造とは異なるものであり、しかも、いずれの引用例にも右継手と電磁流量計を結びつける記載はもとより、右周知の事項と右継手とを結び付ける記載は何もないのであるから、そうした第二引用例ないし第四引用例の記載から本件考案を容易に想到し得るものとは到底認めることはできないし、また、原告が容易推考性の根拠として特に強調する第三引用例記載の発明において、前認定のような同発明のフランジ部に多孔管状の補強材を設ける目的及びその奏する作用効果から右補強材を管内の負圧からライニングが剥離することを防止するという目的のもとに管の全長にわたつてモールドするという構成を着想するということは前掲甲第五号証の全記載によるも極めて容易であると認めることはできないから、本件考案の進歩性を否定する原告の右主張は、いずれも採用することはできない。

(四) そうであれば、第二引用例ないし第四引用例の記載から本件考案を極めて容易に想到し得るものと認めることができないことは明らかである。

3 以上説示したとおり、本件考案と第一引用例記載の考案とが同一でないとする本件審決の認定判断、及び本件考案は第二引用例ないし第四引用例の記載から極めて容易に想到し得るものではないとする本件審決の認定判断に誤りはなく、本件審決の認定判断は正当というべきである。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註〕 本願考案の要旨は左のとおりである。

パイプに内張りされたライニングを有する電磁流量計において、上記ライニング内に多数の孔を有する管状の補強材をモールドした電磁流量計。

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